1年ほど前に螺旋組を試作した記事を書きました。
その際に螺旋組の技法原理を書くことをお約束してました。
このところ暑い日が続いていて、木工作業が出来ずにデスクワークに制限されています。
ということで、この際記事にすることにしました。

 Figure 1 をご覧ください。これが最も単純な螺旋組三角螺旋組ーです。
3本の角材から構成するものです。
この三角螺旋組を基にして、この技法の原理を解説してゆきます。

3本螺旋組 仕上
Figure 1  三角螺旋組


 まずFigure 1 の角材1本を抜き出します。
これを、角材 $A$ とします。
Figure 2 をご覧ください。
角材中2か所に溝、切り込みを掘り込んだ構造になっています。
Figure 3 に $Z$ 方向から見た図(平面図)と $X$ 方向から見た図(立面図)を示しています。
角材のサイズパラメータとしては、長さ $L$ 、厚み $d$ 、幅 $w$ の3種類です。
掘り込む溝の加工パラメータとしては、角材の木口から溝までの距離 $s$ と溝の深さ $x$ の2種類です。
溝に角材をはめ込むので、溝幅は角材の幅 $w$ と等しくなります。
溝は木端に対して直角ではなく60°傾いています。
全体的には、角材の中心に関して点対称となっている構造であることに注意してください。

角材1
Figure 2 三角螺旋組を構成する角材 A を抜き出した図

角材2

Figure 3 Figure 2角材 $A$ の投影図
上:平面図   下:立面図


 溝の幅 $x$ を決定することが、これからの議論の目的です。
Figure 1 の他の2個の角材 $B$ 、$C$ は、Figure 4 に示しますように角材 $A$ と合同となってますことにご注意ください。
さて角材 $A$ と $B$ を嵌め合わせます。
Figure 4 の中の角材 $B$ を時計方向に60°回転させて、角材 $A$ の表面に切った溝に角材 $B$ の裏面に切った溝をはめ込みます。
ここで角材 $B$ を角材 $A$ に押し込みます。
こうすることで、Figure 5 の様になることをご理解いただけますでしょうか。
角材 $B$ を角材 $A$ に押し込んでますので、角材 $B$ の表面と角材 $A$ の表面は面一でなく角材 $B$ の表面と角材 $A$ の表面から面落ちします。
もちろん、面落ちの程度は溝の深さ $x$ に依存します。




角材3

Figure 4 三角螺旋組を構成する角材 $A$,  $B$,  $C$ :角材はすべて合同

角材4

Figure 5 角材 $A$ と角材 $B$ の嵌め合い


 Figure 5 の正面図と立面図をFigure 6 に示します。
もうお分かりですね。
Figure 6 の正面図に開口部が見えています。
この開口部に3番目の角材 $C$ を貫通させることで、三角螺旋組が成立します。
これからの議論では、この開口部の空き間サイズを評価することになります。

角材5
Figure 6  Figure 5 の投影図
上:平面図   下:立面図


 Figure 7 をご覧ください。
この図面は、Figure 6から角材 $A$ と角材 $B$ を抜き出して投影したものです。
図中下の正面図に水平に描かれた紅赤色の実線に注目してください。
この実線は、角材 $A$ の図中左の表面に切った溝の底部のレベルを表しています。
この実線は角材 $B$ の図中左の裏面に切った溝の底部を通るはずです。
何故ならば角材 $A$ と $B$ は、各角材の各溝のこの底部で接しているからに他ありません。
実際にFigure 7においても、紅赤色の実線は角材 $B$ の図中左の裏面に切った溝の底部を通っています。




角材6

Figure 7  Figure 6 から角材  $A$ , $B$ を貫題した投影図
上:平面図   下:立面図

 ここでサイズパラメータとして溝深さ $x$ の他に、$y$ と $z$ という2つのパラメータが出てきます。
図から明白のように、 $y$ と $z$ は $x$ の関数で、次式となります。

\[y = d - x\]
\[z = x - y = x - (d - x) = 2x - d,    ...[1]\]

 さていよいよ仕上です。
Figure 8 をご覧ください。
この図は、Figure 5 の投影図でFigure 6 と同じですが情報の書き込みがあります。
Figure 6 の説明で問題となった開口部の空き間サイズ、この図面では $G$ で表現されていますが、これを評価しましょう。
Figure 7 から明らかなように、$G$ は下記となります。
\[G = 2z\]
[1] より、
\[G = 2(2x - d),    ...[2]\]
となります。



角材7
 Figure 8  Figure 6 と同じでFigure 5 の投影図:必要情報が記載されてます


 角材 $C$ がこの開口部を貫通できるためには、次式を満足すればよいといえます。
\[G \geq d\]
[2] を使えば、次式が得られます。
\[x \geq  \frac{3d}{4},    ...[3]\]
これが結論です。
なお角材 $C$ は、角材 $A$ , $B$ と合同であるということにしました。
しかしながら角材 $C$ は、Figure 8 の開口部に貫通させるだけです。
従いまして角材 $C$ の溝の深さは、角材 $A$ , $B$ と同じにする必要がありません。
角材 $A$ , $B$ の溝と嵌め合った際に面一になればよいので、角材 $C$ の溝の深さは少なくとも $\frac{d}{4}$ であればよいといえます。

 今までの議論の理解の延長線上に乗るのが、6本螺旋組となります。
Figure 9 をご覧ください。
これが6本螺旋組です。
Figure 9 の平面図を Figure 10 に示します。
6本螺旋組の構成要素が、3本螺旋組であることがご理解いただけますでしょうか。
3本螺旋組の議論を敷衍すると、6本螺旋組の場合も [3] が成立することを証明できます。
思考実験をあるいは製作を試みてください。
なおこの6本螺旋組文様群の $p6$ 群に属していますので、平面を埋めることができる文様であることを付言しておきます。


6本螺旋組 v1
Figure 9 6本螺旋組


6本螺旋組 v2
Figure 10 Figure 96本螺旋組の平面図

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