2019年08月

2016年末に定年退職しました。 このブログでは、埼玉県比企郡鳩山町を中心にした植生写真を掲載します。 その他、その地誌、趣味の木工、旅行、お酒にも触れます。

螺旋組技法の原理

 1年ほど前に螺旋組を試作した記事を書きました。
その際に螺旋組の技法原理を書くことをお約束してました。
このところ暑い日が続いていて、木工作業が出来ずにデスクワークに制限されています。
ということで、この際記事にすることにしました。

 Figure 1 をご覧ください。これが最も単純な螺旋組三角螺旋組ーです。
3本の角材から構成するものです。
この三角螺旋組を基にして、この技法の原理を解説してゆきます。

3本螺旋組 仕上
Figure 1  三角螺旋組


 まずFigure 1 の角材1本を抜き出します。
これを、角材 $A$ とします。
Figure 2 をご覧ください。
角材中2か所に溝、切り込みを掘り込んだ構造になっています。
Figure 3 に $Z$ 方向から見た図(平面図)と $X$ 方向から見た図(立面図)を示しています。
角材のサイズパラメータとしては、長さ $L$ 、厚み $d$ 、幅 $w$ の3種類です。
掘り込む溝の加工パラメータとしては、角材の木口から溝までの距離 $s$ と溝の深さ $x$ の2種類です。
溝に角材をはめ込むので、溝幅は角材の幅 $w$ と等しくなります。
溝は木端に対して直角ではなく60°傾いています。
全体的には、角材の中心に関して点対称となっている構造であることに注意してください。

角材1
Figure 2 三角螺旋組を構成する角材 A を抜き出した図

角材2

Figure 3 Figure 2角材 $A$ の投影図
上:平面図   下:立面図


 溝の幅 $x$ を決定することが、これからの議論の目的です。
Figure 1 の他の2個の角材 $B$ 、$C$ は、Figure 4 に示しますように角材 $A$ と合同となってますことにご注意ください。
さて角材 $A$ と $B$ を嵌め合わせます。
Figure 4 の中の角材 $B$ を時計方向に60°回転させて、角材 $A$ の表面に切った溝に角材 $B$ の裏面に切った溝をはめ込みます。
ここで角材 $B$ を角材 $A$ に押し込みます。
こうすることで、Figure 5 の様になることをご理解いただけますでしょうか。
角材 $B$ を角材 $A$ に押し込んでますので、角材 $B$ の表面と角材 $A$ の表面は面一でなく角材 $B$ の表面と角材 $A$ の表面から面落ちします。
もちろん、面落ちの程度は溝の深さ $x$ に依存します。




角材3

Figure 4 三角螺旋組を構成する角材 $A$,  $B$,  $C$ :角材はすべて合同

角材4

Figure 5 角材 $A$ と角材 $B$ の嵌め合い


 Figure 5 の正面図と立面図をFigure 6 に示します。
もうお分かりですね。
Figure 6 の正面図に開口部が見えています。
この開口部に3番目の角材 $C$ を貫通させることで、三角螺旋組が成立します。
これからの議論では、この開口部の空き間サイズを評価することになります。

角材5
Figure 6  Figure 5 の投影図
上:平面図   下:立面図


 Figure 7 をご覧ください。
この図面は、Figure 6から角材 $A$ と角材 $B$ を抜き出して投影したものです。
図中下の正面図に水平に描かれた紅赤色の実線に注目してください。
この実線は、角材 $A$ の図中左の表面に切った溝の底部のレベルを表しています。
この実線は角材 $B$ の図中左の裏面に切った溝の底部を通るはずです。
何故ならば角材 $A$ と $B$ は、各角材の各溝のこの底部で接しているからに他ありません。
実際にFigure 7においても、紅赤色の実線は角材 $B$ の図中左の裏面に切った溝の底部を通っています。




角材6

Figure 7  Figure 6 から角材  $A$ , $B$ を貫題した投影図
上:平面図   下:立面図

 ここでサイズパラメータとして溝深さ $x$ の他に、$y$ と $z$ という2つのパラメータが出てきます。
図から明白のように、 $y$ と $z$ は $x$ の関数で、次式となります。

\[y = d - x\]
\[z = x - y = x - (d - x) = 2x - d,    ...[1]\]

 さていよいよ仕上です。
Figure 8 をご覧ください。
この図は、Figure 5 の投影図でFigure 6 と同じですが情報の書き込みがあります。
Figure 6 の説明で問題となった開口部の空き間サイズ、この図面では $G$ で表現されていますが、これを評価しましょう。
Figure 7 から明らかなように、$G$ は下記となります。
\[G = 2z\]
[1] より、
\[G = 2(2x - d),    ...[2]\]
となります。



角材7
 Figure 8  Figure 6 と同じでFigure 5 の投影図:必要情報が記載されてます


 角材 $C$ がこの開口部を貫通できるためには、次式を満足すればよいといえます。
\[G \geq d\]
[2] を使えば、次式が得られます。
\[x \geq  \frac{3d}{4},    ...[3]\]
これが結論です。
なお角材 $C$ は、角材 $A$ , $B$ と合同であるということにしました。
しかしながら角材 $C$ は、Figure 8 の開口部に貫通させるだけです。
従いまして角材 $C$ の溝の深さは、角材 $A$ , $B$ と同じにする必要がありません。
角材 $A$ , $B$ の溝と嵌め合った際に面一になればよいので、角材 $C$ の溝の深さは少なくとも $\frac{d}{4}$ であればよいといえます。

 今までの議論の理解の延長線上に乗るのが、6本螺旋組となります。
Figure 9 をご覧ください。
これが6本螺旋組です。
Figure 9 の平面図を Figure 10 に示します。
6本螺旋組の構成要素が、3本螺旋組であることがご理解いただけますでしょうか。
3本螺旋組の議論を敷衍すると、6本螺旋組の場合も [3] が成立することを証明できます。
思考実験をあるいは製作を試みてください。
なおこの6本螺旋組文様群の $p6$ 群に属していますので、平面を埋めることができる文様であることを付言しておきます。


6本螺旋組 v1
Figure 9 6本螺旋組


6本螺旋組 v2
Figure 10 Figure 96本螺旋組の平面図

[関連サイト]

折敷(木製ランチョンマット)の第2報

「折敷(木製ランチョンマット)を試作しました」のご報告の直後、追加でさらに折敷(木製ランチョンマット)2枚作製しました。
この2枚も柿渋で塗装しました。
合わせて折敷4枚です。
 
 塗装に初めて柿渋を使用しましたので、柿渋の上に塗るコートとして何を使用するのがいいのか検討しました。
調査してみると木工用みつろうクリーム(尾山製材株式会社)という解に出会いました。
木工用みつろうクリーム(尾山製材株式会社)は、蜜蝋、富山県産なたね油、亜麻仁油、椿油、青森県産ヒバ油を使用しているようです。
早速入手して柿渋で塗装した折敷の上にコートしてみました。
撥水性も良く、仕上がりもなかなか良いです。

 合わせて4枚の折敷の内の2枚を6月、7月と2か月我が家にて毎日の朝昼晩の食事に使用してみました。
これは、コートに使用した木工用みつろうクリームを評価するためです。
2ヶ月使用してみて、以下の事項がわかりました。

1)撥水性は維持できること。
2)汚れは、水で濡らした布を搾って拭き取れること。
3)カレーや赤ワインの汚れも、付着した直後であるならば水で濡らした布を搾って拭き取れること。


ということで4枚の折敷の内、試験用の2枚はそのまま我が家で使用することにして、未使用の2枚を鳩山町コミュニティーマルシェに出展することにしました。


 さてこの折敷には、本ざね端ばめ接ぎ(ほんざねはしばめつぎ)という仕口を使用しています。
ここでPhoto. 1 をご覧ください。
これが製作直後の折敷本ざね端ばめ接ぎの接合部の拡大写真です。
写真では明瞭でないかもしれませんが、製作当初は板目材Aの木端と柾目材Bの木口は面を合わせていました。
次にPhoto. 2 をご覧ください。
Photo. 1と同一の未使用の折敷の同一の部分を本日ただ今撮影したものです。
板目材Aの木端と柾目材Bの木口は、面が一致していないことにお気づきでしょうか。
これは、実は湿気のなせる業です。
以降その理由を解説いたします。


initialphoto
Photo. 1 製作した6月初めの折敷の接合部の写真


IMG_20190803_094933
Photo. 2  Photo.1 と同一の折敷の接合部:本日撮影

 
 この現象を理解するためには、次の2つの事実を理解する必要があります。

事実 1)木材は、吸湿すると膨潤すること [1]
事実 2)膨潤の程度に異方性があること [1]

事実 1)は、木材は湿度と温度に応じて空気中の水蒸気を吸収しその結果膨らむという事実を言っています。
事実 2)は、その際に膨らむ程度は等方的ではなく異方性、すなわち木材中の方向によって違いがあるという事実を言っています。

 さて木材には基本方向が存在します。
Photo. 3 をご覧ください。
切株の写真です。
この写真に示しますように、3種類の基本方向が存在します。

1)軸方向、幹軸方向、繊維方向:longitudinal direction
2)放射方向、半径方向:radial direction
3)接線方向:tangential direction

cross-section-tree
Photo. 3  木材の基本方向:軸方向、放射方向、接線方向 


 次に板目材と柾目材を例に挙げて、それぞれの板材の基本方向がどうなっているかを検討してみましょう。
Photo. 4 をご覧ください。
板目にしろ柾目にしろ、次のように要約できます。
1)軸方向:木目の走る方向、通常の板材の長さの方向
2)接線方向:木目と直交する方向、通常の板材の幅の方向
3)放射方向:通常の板材の厚さ方向


masame-1
Photo. 4  板目材と柾目材での3種類の基本方向

 最後に上記3種類の基本方向で膨潤の程度がどのように違うのかという事実を説明します。

事実 3)膨潤率異方性は、およそ下記となること [1]

         接線方向:放射方向:軸方向=20:10:1

つまり、通常の板材では膨潤率
 
         幅方向:厚さ方向:長さ方向=20:10:1

になると言い換えられます。

 ここで折敷に戻りましょう。
折敷を構成するすり合わせ矧ぎした板目材端ばめ接ぎした柾目材での基本方向を考察してみましょう。
Photo. 5 をご覧ください。
Photo. 2 での面落ちに原因するのは、Photo. 5 でのY方向となります。
すり合わせ矧ぎした板目材AではY方向は接線方向であるのに対して、端ばめ接ぎした柾目材Bでは軸方向となります。
事実 3)から、すり合わせ矧ぎした板目材AのY方向の膨潤端ばめ接ぎした柾目材BのY方向の膨潤の20倍の程度と推定されます。
この1桁以上の膨潤の差異が、Photo. 2 に示すような段差を生むでいるものと理解できます。



折敷
Photo. 5  折敷の板目材と柾目材の基本方向

 
 ここで、皆様の疑問にお答えします。
皆様はすり合わせ矧ぎした板目材端ばめ接ぎした柾目材は、互いに接着剤で固定しているのでPhoto. 2 のような段差は生じないはずでしょうと疑問に思っているのではないかと推測されます。
実はこの試作品の場合は、すり合わせ矧ぎした板目材端ばめ接ぎした柾目材は中央部の1/3程度の部分にだけ接着剤で固定していたのです。
今までに記載していたことは、製作時には想定済みのことでした。
仮に部分接着ではなく全面で接着固定しますと、膨潤時は端ばめ接ぎした柾目材に引っ張り応力が生じますので端ばめ接ぎした柾目材に割れやクラックが発生することが予想されます。
そのため、端ばめ接ぎを採用する場合はこの現象を回避する策を打つ必要があるのです。
今回は、部分接着という策を打ってみました。
これはこれで今のところ問題は生じてないようです。

 ということで、未使用の2枚を鳩山町コミュニティーマルシェに出展しました。

IMG_20190805_115344




[参考ウェブサイト]
柿渋、折敷、本ざね端ばめ接ぎ、すり合わせ矧ぎ、板目、柾目などの木工用語


[参考文献]
[1]:職業能力開発総合大学校. 木工材料. 職業訓練教材研究会. 2013. pp46~50. ISBN978-4-7863-1096-6


ギャラリー
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プロフィール

nonchan

ブログデビューしたてのビギナーです。 定年リタイア後、ルーティンとして週5のウォーキングと週2のスイミングを課してます。 ブログでは、わたし流の生活から派生した事項を載せるつもりです。 まずは、ウォーキング中に撮影した自宅付近の植生の写真を載せます。 趣味の木工も掲載しようかと考えています。