考察(その2)での感染数理モデルから実効再生産数を算定する試みをしてみました。
また日本での感染データを感染数理モデルで解析し実効再生産数を計算してみました。
考察(その2)での感染数理モデルを再度記載します。
\[\frac{dS}{dt} =- \beta SI\]
\[\frac{dI}{dt} = \beta SI- \gamma I\]
\[\frac{dR}{dt} = \gamma I\]
ここで、変数は$S$、$I$, $R$です。
$S$ は、the number of $susceptible$ individuals の $S$ であり, 感染の可能性のある個体の数量、すなわちまだ感染していない人の数(健康人口と呼ぶことにします)を表しています。
次に $I$ ,は, the number of $infected$ individuals の $I$ であり, 感染した個体の数量、すなわちすでに感染している人の数(感染人口と呼ぶことにします)を表しています。
変数 $R$ は、the number of $recovered$ individuals の $R$ であり、回復した個体の人数(回復人口と呼ぶことにします)を表しています。
なお $R$ には死者を含めます。
上記微分方程式の第2式から、
\[\frac{dI}{dt} = \gamma \big( \frac{ \beta S}{ \gamma }-1 \big) I\]
となります。
ここで、実効再生産数 ( effective reproduction number ) を定義します。
h実効再生産数は普通は$R$と表記しますが、回復人口と識別するためここでは$ERN$と表記します。
\[ERN \equiv \frac{ \beta S}{ \gamma } , ......[1]\]
実効再生産数$ERN$を考察しましょう。
以下の3つのケースがあります。
\[(1) ERN>1 \Longrightarrow \frac{dI}{dt} > 0 \]
\[(2) ERN=1 \Longrightarrow \frac{dI}{dt} = 0 \]
\[(3) ERN<1 \Longrightarrow \frac{dI}{dt} < 0 \]
すなわち、
\[(1) ERN>1 \Longrightarrow「感染人口は増加します」\]
\[(2) ERN=1 \Longrightarrow 「感染人口は極値をとります」\]
\[(3) ERN<1 \Longrightarrow 「感染人口は減少します」\]
$I$は、感染人口ですから初期値は0で次第に増加しその後減少する傾向の関数ですから、上記(2)の場合の$I$の極値とは極大値と考えられます。
この意味でこの数理モデルによる実効再生産数$ERN$の定義は合理的であるといえます。
さて日本におけるCOVID-19の感染状況を視覚化しました。
Figure 1 をご覧ください。
厚労省公開のデータ [1] を使用して縦棒グラフと折れ線グラフをプロットしています。
(1) 新規感染者数縦棒グラフ
(2) 新規退院者数縦棒グラフ
(3) 新規死亡者数縦棒グラフ
(4) 累積感染者数グラフ
(5) 感染人口グラフ
(6) 感染人口階差グラフ(移動平均処理)
(7) 回復人口グラフ
Figure 1 日本におけるCOVID-19の感染状況
ここで最も注目すべき点は、感染人口グラフがピークアウトし減少傾向を見せかけていることです。
感染人口階差グラフ(移動平均処理)は、感染人口グラフの微分を表現しています。
従いまして、感染人口階差グラフ(移動平均処理)の細かな揺動を均して見た際に、5月3日付近で横軸を交差しているとざっくり判断します。
これより感染人口グラフのピークは、5月3日付近と判断します。
Figure 1の開始点は1月15日ですが、これより5月3日は110日後となります。
さてFigure 1にある感染人口グラフを感染数理モデルを用いてフィッティングすることを試みます。
この際に、感染人口グラフのピークが5月3日(110日後)であることにも留意することとします。
計算の初期値は下記のとおりです。
Figure 2 がその結果です。
[1] $S(0)=20000=1.4\times 10^{4} $; (people)
[2] $I(0)=1$; (people)
[3] $R(0)=0$; (people)
[4] $\beta=0.0000644=6.44\times 10^{-5}$; (/people/day)
[5] $\gamma=0.211968$; (/day)
Figure 2 日本での感染人口$I(t)$の時間変化
水色カーブ:厚労省データからの算定値, 紫色カーブ:数理モデル (SIRモデル ) での計算値
$S(0)=20000=2\times 10^{4} $, $I(0)=1$, $R(0)=0$
$\beta= 0.0000644=6.44\times 10^{-5}$, $\gamma=0.211968$
次に、Figure 3 に健康人口、感染人口、回復人口のシミュレーション結果も示します。
この図には、健康人口から算定した累積感染者数グラフも併せて示してます。
Figure 1の実際値と比較して、回復人口グラフに乖離が見られます。
Figure 3 韓国での感染のシミュレーション結果
紫色:累積感染者数、 青色:健康人口、 緑色:回復人口、 赤色:感染人口
Figure 2と同一の条件でのシミュレーション結果
さてこのシミュレーションから、[1]で定義したERNを計算してみました。
Figure 4 をご覧ください。
起点の1月15日(0 day)でのERN=6.0から、5月3日(110 days)でのERN=0.99、5月8日(115 days)でのERN=0.70と単調減少する曲線となっています。
起点から40日後までERN=6を維持していますが、この数値は基本再生産数と考えられます。
このシミュレーションでは、基本再生産数(Basic reproduction number) は、BRN=6.0と判断できます。
なお、COVID-19のBRN値としては、1.5~6.49(平均値:3.28)という数値が公表されています[2]。
Figure 4 日本での実効再生産数 ERN のシミュレーション結果
横軸は1月15日からの経過日数
Figure 2と同一の条件でのシミュレーション結果
[参照サイト]