枡格子の最後になりますが、枡格子(その3)は”四ツ目編み枡格子”です。
なお一連の枡格子に関する記事において一般的ではないわたし流の用語に関しては、上記の"反復枡格子"のように quotation mark で囲って表記しますのでご注意ください。
Figure 1 が、”四ツ目編み枡格子”です。
縦桟も横桟も、”欠出反復桟(かけだしはんぷくさん)”となってます。
”欠出反復桟”に関しては、枡格子(その2)をご参照ください。
Figure 1 ”四ツ目編み枡格子”
縦桟及び横桟;”欠出反復桟(かけだしはんぷくさん)”
それでは次に、”四ツ目編み枡格子”の構造に立ち入って考えてみましょう。
Figure 2 は、Figure 1 の3D図面です。
格子の角材は、3種類に色分けが施されています。
縦桟が1色、横桟が2色です。
ここで大きな疑問が浮かびませんか。
格子の角材は、3種類に色分けが施されています。
縦桟が1色、横桟が2色です。
ここで大きな疑問が浮かびませんか。
それは、このような籠目状に角材を組むことがいったいできるのでしょうかという疑問です。
結論から申しますと、それはできます。
実はこの”四ツ目編み枡格子”は、飛騨組子または千鳥格子に他ありません。
結論から申しますと、それはできます。
実はこの”四ツ目編み枡格子”は、飛騨組子または千鳥格子に他ありません。
飛騨組子または千鳥格子に関しましては、すでに記事にしています。
その記事も是非参考にしてください。
ここでは枡格子という観点から論じたいと思います。
Figure 3 は、Figure 2 における縦桟 V1、V4 および横桟 H1を抽出しかつ互いの嵌め合いを外した状態を示します。
横桟 H1はそのままにして、縦桟 V1を z軸+方向に、縦桟 V4を z軸-方向に移動させた状態とお考え下さい。
ここで重要なことは、縦桟 V1、V4および横桟 H1はすべて合同な3D図形でありすべて両組手(りょうくで)であるということです。
横桟 H1はそのままにして、縦桟 V1を z軸+方向に、縦桟 V4を z軸-方向に移動させた状態とお考え下さい。
ここで重要なことは、縦桟 V1、V4および横桟 H1はすべて合同な3D図形でありすべて両組手(りょうくで)であるということです。
両組手(りょうくで)とは、切り欠き(組手(くで))が表裏両面に存在するような構造です。
建具用語です。
縦桟 V4は縦桟 V1をxz平面内で180°回転した3D図形であることに他ありません。
縦桟 V3, V5は、縦桟 V1をx軸方向に周期 ɤ の2倍、4倍併進させた図形となっています。
同様に、縦桟 V2, V6は、縦桟 V4をx軸方向に周期 ɤ の-2倍、+2倍併進させた図形となっています。
横桟V3, V5は、横桟 V1をy軸方向に周期 ɤ の-2倍、-4倍併進させた図形となっています。
同様に、縦桟 V2, V6は、縦桟 V4をx軸方向に周期 ɤ の-2倍、+2倍併進させた図形となっています。
横桟V3, V5は、横桟 V1をy軸方向に周期 ɤ の-2倍、-4倍併進させた図形となっています。
なお Figure 3 は、もう一つ重要な事項を示してます。
それは”切り欠き”の深さが深いということです。
今までの”単純枡格子”および”反復枡格子”では、”切り欠き”の深さは角材の板厚の半分でした。
これは両者では、十字相欠き接ぎが採用されていたからに他ありません。
しかし”四ツ目編み枡格子”では、”切り欠き”の深さは角材の板厚の半分より大となります。
この”切り欠き”の深さの定量的議論は、この記事の最後にいたします。
さてここからは”四ツ目編み枡格子”を組む手順を記載します。
Figure 4 をご覧ください。
[1] 縦桟V2, V4, V6を机上で所定の位置に配置します。
[2] 次に横桟H1を縦桟V2, V4, V6と所定の位置で咬み合う様に配置します。
[3] 同様に横桟H3, H5 も縦桟と配置します。
Figure 5 は、この状態を示してます。
Figure 5 手順 [3]
次に Figure 6 に示すように、
[4] 縦桟V1 を横桟H1, H3, H5 と嵌め合う様に配置します。
[5] 同様に、縦桟V3, V5 も横桟に配置します。
Figure 7 は、この状態を示します。
Figure 6 手順 [4]
Figure 7 手順 [5]
さてここからは少々想像力を働かせていただきます。
Figure 8 をご覧ください。
[6] 縦桟V2, V4, V6を z 軸の+方向に引き上げます。
このとき他のすべての桟は嵌め合った状態を維持しつつかつ互いに z 軸方向にずれて机上から浮かびます。
ここで”四ツ目編み枡格子”では嵌め合いが十字相欠き接ぎではなく”切り欠き”の深さが深いということを思い出してください。
ご理解いただけますでしょうか。
さて Figure 8 の状態を x 軸の+方向から見ると Figure 9 の様になります。
このとき縦桟 V1, 3, 5 と V2, 4, 6 の間に開口部が3か所生成されます。
Figure 9 Figure 8を x 軸の+方向から見た2D図面:開口部の生成
さて次にFigure 10に示すように、
[7] Figure 9 の開口部に横桟H2, H4, H6を挿入させます。
その結果、Figure 11 の様になります。
ここでご注意いただきたい事項は、横桟H2, H4, H6の"切り欠き"が浅めであることです。
"切り欠き"の深さの定量的議論は、この記事の最後にまとめます。
最後に、
[8] 全体を机上に載せ横桟と縦桟を上から押えすべての桟机上に接地させます。
この結果、FIgure 2 に示すような”四ツ目編み枡格子”となります。
ここからは、”切り欠き”の深さの定量的議論をしたいと思います。
まずは Figure 8 に戻り、この図面から縦桟のV2, V4, V6と横桟H3を取り除いてみましょう。
そうしますと、Figure 12 の様になります。
次に Figure 12 を x 軸の+方向から見ると Figure 13 となります。
この図で縦桟・横桟の角材の厚みは両者同一であり $\ t $ とします。
また縦桟・横桟の"切り欠き"の深さは両者同一であり、 $\ d $ とします。
さらに縦桟・横桟の"切り欠き"部の厚みは両者同一であり、 $\ s $ とします。
ここで、
$\ s = t - d,\ldots[1] $
です。
次に、横桟の底面の点を$\ B$、縦桟 V5 の上面の点を $ \ T_{V5} $ とします。
また各点の z 座標を$\ z(B)$、$ \ z( T_{V5}) $ とします。
このとき、
$\ z(T_{V5})=z(B)+2s , ...[2] $
となります。
縦桟の上方向に開校した切り欠きの底面の点を$\ Q$とすると、その z 座標$\ z(Q) $は
$\ z(Q)=z(T_{V5})-d$
となります。従って、[2], [1] より
$\ z(Q)=z(B)+2s-d$
$\ =z(B)+2(t-d)-d$
$\ z(Q)=z(B)+2t-3d,...[3]$
Figure 12 Figure 8 の図面から縦桟のV2, V4, V6と横桟H3を取り除いた図面
次に、Figure 14 をご覧ください。
Figure 14 は、Figure 8 を x 軸の+方向から見た2D図面で Figure 9 と同じです。
Figure 9にこれからの議論に必要な情報を書き加えた図面です。
ここで縦桟 V6 は形状がそのまま出てます。
一方縦桟 V5 は、縦桟 V6によって上部部分が隠されていることにご注意ください。
縦桟 V6 の底面の点を$\ B_{V6}$としその z 座標を$\ z(B_{V6}) $
"切り欠き"
となります.
従って、[4], [1] により
$\ z(P)=z(T)-2s+d$
$\ =z(T)-2(t-d)+d$
$\ z(P)=z(T)-2t+3d , ...[5]$
開口部の幅を$\ Gap $とすると、$\ Gap $は
$\ Gap=z(P)-z(Q) $
なので、
$\ Gap=-3t+6d $
開口部に横桟 H2, H4, H6 を挿入できるためには、この開口部の幅$\ Gap $が横桟の角材の厚さ$\ t $より大であることが条件ですので、
という関係が得られます。
ここで [6] を満足する縦桟及び横桟 H 1, H 2, H 3 の"切り欠き"の深さを $\ d^{*} $ とします。
さて次に横桟H2, H4, H6 の切り欠きの深さについて考えます。
Figure 10 から、横桟H2, H4, H6 の切り欠きの深さ$\ d^{**} $は次となることは明瞭だと思います。
$\ d^{**} \geq s=t-d$
ここでの数量的議論の結論としては、下記となります。
[C1] すべての縦桟および横桟H1, H3, H4 の切欠きの深さ$\ d^{*} $は、桟の角材の板厚を$\ t $とすると
$\ d^{*}\geq \frac{2}{3}t,$
[C2] 横桟H2, H4, H6 の切り欠きの深さ$\ d^{**} $は、
$\ d^{**} \geq t-d^{*}$
である。
最後にわたし流に”四ツ目編み枡格子”を適用した木製品の写真を示します。
Photo. 1 をご覧ください。
これは、川越高等技術専門校で自由課題として製作したものです。
剣留にて縦框に接いだ横桟の上部には一重菱の組子、その下部には縦横14枚から成る飛騨組子 (千鳥格子)を配置してます。
上部の軽量な菱と下部の重厚な飛騨組子の対比で、心地よいリズムを生成するように意図しました。
剣留にて縦框に接いだ横桟の上部:一重菱の組子、
横桟の下部:縦横14枚から成る飛騨組子 (千鳥格子)