千鳥格子

2016年末に定年退職しました。 このブログでは、埼玉県比企郡鳩山町を中心にした植生写真を掲載します。 その他、その地誌、趣味の木工、旅行、お酒にも触れます。

枡格子について(その3):四ツ目編み枡格子

 枡格子の最後になりますが、枡格子(その3)は”四ツ目編み枡格子”です。
なお一連の枡格子に関する記事において一般的ではないわたし流の用語に関しては、上記の"反復枡格子"のように quotation mark で囲って表記しますのでご注意ください。

 Figure 1 が、”四ツ目編み枡格子”です。
縦桟も横桟も、”欠出反復桟(かけだしはんぷくさん)”となってます。
欠出反復桟”に関しては、枡格子(その2)をご参照ください。
平面図
Figure 1  ”四ツ目編み枡格子
縦桟及び横桟;”欠出反復桟(かけだしはんぷくさん)

 それでは次に、”四ツ目編み枡格子”の構造に立ち入って考えてみましょう。
Figure 2   は、Figure 1 の3D図面です。
格子の角材は、3種類に色分けが施されています。
縦桟が1色、横桟が2色です。
ここで大きな疑問が浮かびませんか。
それは、このような籠目状に角材を組むことがいったいできるのでしょうかという疑問です。
結論から申しますと、それはできます。
実はこの”四ツ目編み枡格子”は、飛騨組子または千鳥格子に他ありません。
飛騨組子または千鳥格子に関しましては、すでに記事にしています。
その記事も是非参考にしてください。
ここでは枡格子という観点から論じたいと思います。

3D2
Figure 2  Figure 1の3D図面

 Figure 3 は、Figure 2 における縦桟 V1、V4 および横桟 H1を抽出しかつ互いの嵌め合いを外した状態を示します。
横桟 H1はそのままにして、縦桟 V1を z軸+方向に、縦桟 V4を z軸-方向に移動させた状態とお考え下さい。
ここで重要なことは、縦桟 V1、V4および横桟 H1はすべて合同な3D図形でありすべて両組手(りょうくで)であるということです。
両組手(りょうくで)とは、切り欠き(組手(くで))が表裏両面に存在するような構造です。
建具用語です。
縦桟 V4は縦桟 V1をxz平面内で180°回転した3D図形であることに他ありません。
縦桟 V3, V5は、縦桟 V1をx軸方向に周期 ɤ の2倍、4倍併進させた図形となっています。
同様に、縦桟 V2, V6は、縦桟 V4をx軸方向に周期 ɤ の-2倍、+2倍併進させた図形となっています。
横桟V3, V5は、横桟 V1をy軸方向に周期 ɤ の-2倍、-4倍併進させた図形となっています。
なお Figure 3 は、もう一つ重要な事項を示してます。
それは”切り欠き”の深さが深いということです。
今までの”単純枡格子”および”反復枡格子”では、”切り欠き”の深さは角材の板厚の半分でした。
これは両者では、十字相欠き接ぎが採用されていたからに他ありません。
しかし”四ツ目編み枡格子”では、”切り欠き”の深さは角材の板厚の半分より大となります。
この”切り欠き”の深さの定量的議論は、この記事の最後にいたします。



3D3
Figure 3  Figure 2 から縦桟V1, V3 及び横桟H1を抽出しかつ互いの嵌め合いを外した3D図面


 さてここからは”四ツ目編み枡格子”を組む手順を記載します。
Figure 4 をご覧ください。
[1] 縦桟V2, V4, V6を机上で所定の位置に配置します。
[2] 次に横桟H1を縦桟V2, V4, V6と所定の位置で咬み合う様に配置します。
[3] 同様に横桟H3, H5 も縦桟と配置します。
Figure 5 は、この状態を示してます。
 

3D4
Figure 4  手順 [1], [2]
 3D5
Figure 5  手順 [3]


次に Figure 6 に示すように、
[4] 縦桟V1 を横桟H1, H3, H5 と嵌め合う様に配置します。
[5] 同様に、縦桟V3, V5 も横桟に配置します。
Figure 7 は、この状態を示します。
3D7
Figure 6  手順 [4]

3D8
Figure 7  手順 [5]

 さてここからは少々想像力を働かせていただきます。
Figure 8 をご覧ください。
[6] 縦桟V2, V4, V6を z 軸の+方向に引き上げます。
このとき他のすべての桟は嵌め合った状態を維持しつつかつ互いに z 軸方向にずれて机上から浮かびます。
ここで”四ツ目編み枡格子”では嵌め合いが十字相欠き接ぎではなく”切り欠き”の深さが深いということを思い出してください。
ご理解いただけますでしょうか。
さて Figure 8 の状態を x 軸の+方向から見ると Figure 9 の様になります。
このとき縦桟 V1, 3, 5 と V2, 4, 6 の間に開口部が3か所生成されます。




3D9
Figure 8  手順 [6]
開口部1
Figure 9 Figure 8を x 軸の+方向から見た2D図面:開口部の生成

 さて次にFigure 10に示すように、
[7] Figure 9開口部に横桟H2, H4, H6を挿入させます。
その結果、Figure 11 の様になります。
ここでご注意いただきたい事項は、横桟H2, H4, H6の"切り欠き"が浅めであることです。
"切り欠き"の深さの定量的議論は、この記事の最後にまとめます。
最後に、
[8] 全体を机上に載せ横桟と縦桟を上から押えすべての桟机上に接地させます。
この結果、FIgure 2 に示すような”四ツ目編み枡格子”となります。


3D10
Figure 10 手順 [7]

103D1
Figure 11 手順 [7]の結果


 ここからは、”切り欠き”の深さの定量的議論をしたいと思います。
まずは Figure 8 に戻り、この図面から縦桟のV2, V4, V6と横桟H3を取り除いてみましょう。
そうしますと、Figure 12 の様になります。
次に Figure 12 を x 軸の+方向から見ると Figure 13 となります。
この図で縦桟・横桟の角材の厚みは両者同一であり $\ t  $ とします。
また縦桟・横桟の"切り欠き"の深さは両者同一であり、 $\ d  $ とします。
さらに縦桟・横桟の"切り欠き"部の厚みは両者同一であり、 $\ s $ とします。
ここで、

$\ s = t - d,\ldots[1] $

です。
次に、横桟の底面の点を$\ B$、縦桟 V5 の上面の点を $ \ T_{V5}  $ とします。
また各点の z 座標を$\ z(B)$、$ \ z( T_{V5})  $ とします。
このとき、

$\ z(T_{V5})=z(B)+2s   ,   ...[2] $

となります。
縦桟の上方向に開校した切り欠きの底面の点を$\ Q$とすると、その z 座標$\ z(Q) $は

$\ z(Q)=z(T_{V5})-d$

となります。従って、[2], [1] より

$\ z(Q)=z(B)+2s-d$
$\             =z(B)+2(t-d)-d$

$\  z(Q)=z(B)+2t-3d,...[3]$


3D12
Figure 12   Figure 8 の図面から縦桟のV2, V4, V6と横桟H3を取り除いた図面

切り欠き1
Figure 13 Figure 12 を x 軸の+方向から見た2D図面


次に、Figure 14 をご覧ください。
Figure 14 は、Figure 8 を x 軸の+方向から見た2D図面で Figure 9 と同じです。
Figure 9にこれからの議論に必要な情報を書き加えた図面です。
ここで縦桟 V6 は形状がそのまま出てます。
一方縦桟 V5 は、縦桟 V6によって上部部分が隠されていることにご注意ください。
縦桟 V6 の底面の点を$\ B_{V6}$としその z 座標を$\ z(B_{V6}) $
"切り欠き"
となります.
従って、[4], [1] により

$\ z(P)=z(T)-2s+d$
$\ =z(T)-2(t-d)+d$

$\ z(P)=z(T)-2t+3d   ,   ...[5]$

開口部の幅を$\ Gap $とすると、$\ Gap $は

$\ Gap=z(P)-z(Q) $
なので、

$\ Gap=-3t+6d $
開口部に横桟 H2, H4, H6 を挿入できるためには、この開口部の幅$\ Gap $が横桟の角材の厚さ$\ t $より大であることが条件ですので、

という関係が得られます。


開口部2
Figure 14  Figure 8 を x 軸の+方向から見た2D図面


ここで [6] を満足する縦桟及び横桟 H 1, H 2, H 3 の"切り欠き"の深さを $\ d^{*} $ とします。
さて次に横桟H2, H4, H6 の切り欠きの深さについて考えます。
Figure 10 から、横桟H2, H4, H6 の切り欠きの深さ$\ d^{**} $は次となることは明瞭だと思います。

$\ d^{**} \geq s=t-d$

 
ここでの数量的議論の結論としては、下記となります。

[C1] すべての縦桟および横桟H1, H3, H4 の切欠きの深さ$\ d^{*} $は、桟の角材の板厚を$\ t $とすると

$\ d^{*}\geq \frac{2}{3}t,$

[C2] 横桟H2, H4, H6 の切り欠きの深さ$\ d^{**} $は、


$\ d^{**} \geq t-d^{*}$

である。

 最後にわたし流に四ツ目編み枡格子”を適用した木製品の写真を示します。
Photo. 1 をご覧ください。

これは、川越高等技術専門校で自由課題として製作したものです。

剣留にて縦框に接いだ横桟の上部には一重菱組子、その下部には縦横14枚から成る飛騨組子 (千鳥格子)を配置してます。

上部の軽量なと下部の重厚な飛騨組子の対比で、心地よいリズムを生成するように意図しました。



IMG_20170927_080929

Photo. 1 四ツ目編み枡格子”を適用した木製品例
剣留にて縦框に接いだ横桟の上部:一重菱組子
横桟の下部:縦横14枚から成る飛騨組子 (千鳥格子)

ハウンドトゥース チェック (千鳥格子)の中に千鳥が見出されるか?

 前回の記事の中で千鳥格子(ハウンドトゥース チェック ( hound's-tooth check )) の中に日本の伝統的文様の千鳥がわたし流には見出し得ないということを申し上げました。
その後webで調査していましたら、世の中の人の理解の中にどうやら2説あることがわかってきました。
今回の記事ではこれに触れます。

 結論から申しますと、2説とは下記のとおりです。
説A:千鳥の飛ぶ姿
説B:千鳥の足跡
ここで説Aがメジャーな説であり、説Bがマイナーな説となります。

 まずは説Aからご説明申し上げます。
Photo. 1(a)は、wikipedia上のhound's-tooth check [1] に掲載されている文様を示しています。
従いまして、これが英国で生まれた典型的なhound's-tooth checkと考えて良いのではないかと思われます。
ここで十分注意をしなくてはならないことは、この写真が典型的ではありますが、伝統的なhound's-tooth checkでないかもしれないという可能性です。
実はhound's-tooth checkも一通りではなく、異なるパターンもあります。
しかしながら、今回はこのパターンで話を展開します。

Hundtandsrutor

Photo. 1 hound's-tooth check (引用 [1]


 さて千鳥と呼ぶ日本の伝統的模様である千鳥模様は、Photo. 2(a)であると考えていますが、皆様はいかがでしょうか。
そもそものわたし流の疑問は、Photo. 1の中にphoto. 2が見出し得ないのではないかのかということでした。
Photo. 2(b)をご覧ください。
これはとあるアクセサリーショップの商品例で、hound's-tooth checkをモチーフとしたピアス(千鳥ピアス)です。
hound's-tooth checkの中に敢えて千鳥の飛ぶ姿を見出そうとした場合の一つの解であると考えられます。
そもそもチドリとは、鳥類チドリ族チドリ科の鳥の総称です。
Photo. 2(c)チドリ科の鳥の生態写真 [4] を載せました。
この写真の鳥が、チドリ科の何であるのかという特定は[4]ではなされていませんでした。
Photo. 2 (b)(c)を比較しますと、嘴は似ているとはいえませんが飛翔する姿、特に羽の形態は似てなくもないという感想ですが、いかがでしょうか。
2本の風切ばねと尾羽が形成する形状はよく似ているといえます。
この羽の部位をデフォルメすると、Photo. 2 (a)に示す伝統的な千鳥模様にもなり得ます。
従って、嘴の部位を除けば説Aは説得力があります。



20130918_75795267969362b0093742_22503592
                         (a)                              (b)                              (c)

Photo. 2 (a)日本の伝統的な千鳥模様(引用 [2])、
(b):千鳥のピアス(引用 [3])、(c)チドリ科の野鳥の生態写真(引用 [4]

 次に説Bに移ります、、すなわち足跡説です。
この説は、OKWAVEの千鳥格子Q&A[5]の遣り取りの中にあった説です。
チドリの足跡をwebで調査しました。
Photo.3 (a)をご覧ください。
チドリ科のシロチドリの足跡が、他の鳥類と比較して示してあります。
カルガモとシロチドリ以外の鳥は、すべて4本です。
他方カルガモとシロチドリは3本です。
専門的にはチドリ科の足跡の最大の特徴は、三趾足(さんしそく、英:tridactyl)である点です [7]
実際の足跡は、これぞチドリ科の鳥の足跡というような特定されたものには行き当たりませんでした。
しかし恐らくはチドリ科の鳥の足跡であろう写真はありました。
Photo.3 (b)をご覧ください。
この写真には、前述した三趾足が印象的なものとなっています。
従ってPhoto.3 (b)はチドリ科の鳥の足跡と考えて間違いないと思われます。
Photo.1Photo.3 (b)を比較しますと、説Aで2本の風切ばねと尾羽と想定した形状をこの三趾足とみることができます。
しかしながらPhoto.3 (a) でも (b) でも、各3本の趾は等長です。
他方Photo.1では明らかに真ん中の趾(第3趾)は、他の2本より短く描かれています。
また説Aで嘴と想定した図形は、この説では説明が付きません。
従って、説Bには説少々無理があります。


034_01bird
                                  (a)                                                           (b)
Photo. 3 (a)鳥類の足跡例(引用:[6])、 (b)チドリ科と推定される鳥の足跡(引用:[8]

 以上の考察より、わたし流では説Aがより合理的と考えられます。
しかしながら、説Aにはまだ十分満足されるものになってないような気もします。
どうやら日本には平安時代に千鳥格子と呼ばれるような文様があったという説もあるようです。
現在この辺りを調査しておりますので、何か新しい事実がでてきたら記事にします。



引用サイト
ギャラリー
  • Soma cube の解480通りの体系化(その1)
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  • Soma cube の解480通りの体系化の提案(その 2 )
プロフィール

nonchan

ブログデビューしたてのビギナーです。 定年リタイア後、ルーティンとして週5のウォーキングと週2のスイミングを課してます。 ブログでは、わたし流の生活から派生した事項を載せるつもりです。 まずは、ウォーキング中に撮影した自宅付近の植生の写真を載せます。 趣味の木工も掲載しようかと考えています。