7,8月の夏の期間は、製作活動を停止することにしています。
しかしながら、かみさんの父親が春に大往生し遺影等を飾る箱物が欲しいという要請もあり、また遺影等一式を収納整理したいというわたし流の希望もありました。

そこで仏壇というよりはよりコンパクト性を求めて、お厨子を設計・作製することにしました。

厨子とは、「仏像、舎利容器、経巻などを納める仏具」とブリタニカには規定されています [1]


 今回の設計意図は、厨子らしさをいかにsimpleに表現するかでした。
そのための形象要素として、1)観音扉、2)屋根状の天板、3)統一性ある木目を抽出しました。
要素3)のキーワードである「木目」を意図しましたので、材料は板目で木目が明確な材であるタモ材を適用しました。


 材料はタモ無垢材の調達に、ときがわ町の木の駅ときがわさんに行きました。

ここで、厚さ約40mm、長さ2200mm、幅270mmのタモ材を購入しました。

これを挽割ってもらい、厚さ16mm程度、長さ2200mm、幅270mmの板材2枚にしてもらいました。

ここで挽割 ( ひきわり ) とは、元の板材の長さと幅はそのままにして厚みを薄くした板材2枚にする加工のことです。

この挽割は、上記の形象要素 の中の3)統一性ある木目に貢献してくれます。

この板材2枚から設計し、外寸で長さ420mm、奥行280mm、高さ428mmの厨子を作製しました。


 Photo. 1をご覧ください。

まず、厨子の観音扉にご注目ください。

この観音扉は、上記の形象要素 の中の1)観音扉そのものに他ありません。

左右の扉の木目模様が、同一ではないですが類似していることにご着目下さい。

ここでは、ブックマッチ(Bookmaching)という技法を採用しています。

Figure 1 をご覧ください。

ブックマッチ (bookmaching) とは、板材をバンドソー ( 板材挽割り用途の帯状の鋸) などで半分に挽割ってFigure 1 のように本を見開いた状態にした2枚の板材の配置を指します。

この配置では、2枚の板材の木目模様が図の軸YY'を対象軸とした線対称に近接したものとなるため独特のシンメトリカルな意匠が得られます。

このブックマッチは、上記の形象要素 の中の3)統一性ある木目に貢献してくれます。

詳細は、 GLOSSARY(木木木の工房 INFINITY) をご覧ください。

ブックマッチをご理解いただいた上で、再度 Photo. 1観音扉の左右を観察してください。

板材をバンドソーなどで挽割った際の切りしろ数mm分の厚さ方向の木目のズレがあるため、完全な線対称ではなくズレが存在することで自然でなおかつとても心地良い感じに仕上がります。




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Photo.1 製作した厨子



ブックマッチ
Figure 1 ブックマッチ (Bookmatching)


 再び Photo. 1に戻っていただき観音扉の上の天板にご注目ください。

天板の左右の木口を傾斜カットし傾斜を入れることで、屋根(屋蓋)を表出しました。

この天板木口の傾斜は、上記の形象要素 の中の2)屋根状の天板に貢献してくれます。

 


 観音扉をあけると、Photo. 2 の様になります。

下部に抽斗を作り、細かい物を収納できるようにしています。

厨子ですからここに仏具、とりわけ仏像でも配置し厨子との調和性を確認したいと考えました。

しかしながら積極的な仏教徒ではないわたしの周囲には、仏像などありません。

そこで仕方なくハネムーンの際にバリ島でお土産に購入したバリヒンズー教のガルーダ彫刻像を納めてみました。

Photo. 3 をご覧ください。

いかがでしょうか。

ガルーダ彫刻像は、ミスマッチング気味でしょうか。

次に、同じくバリ島お土産品のRice god彫刻像はいかがでしょうか。

Photo. 4 をご覧ください。

Rice god彫刻像のほうが、ガルーダ彫刻像よりも調和しているように見えませんか。

ガルーダ彫刻像はなんとなく飛鳥時代の仏像風の雰囲気をかもしだしていませんでしょうか。

仏像ではありませんが、厨子と宗教的像の調和はまずまずのようですが、いかがでしょうか。




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Photo.1 製作した厨子:観音扉を開くと抽斗が出現



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Photo.3 製作した厨子:ガルーダ彫刻像を仮配置



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Photo.4 製作した厨子:Rice god 彫刻像を仮配置



 今はまだ未塗装ですが、今後オイルフィニッシュで仕上をする予定です。

塗装をするとまた表情が変わりますので、ご報告いたします。

なお今回製作した厨子に関してのその他の情報は、MyHomePage ( 木木木の工房 INFINITY ) の厨子の製品詳細情報をご訪問ください。


 さて、厨子と言えば法隆寺の玉虫厨子が有名です。

わたし流には、今から60年ほど前の小学校の教科書に掲載されていた "たまむしのずしの物語" が印象的で、物語の細部は不明瞭なのですが輪郭だけがボォーッと入力されています。

その輪郭をたどると、玉虫(より詳細にはヤマトタマムシ)の翅をこの厨子の金銅金具に飾ってあることから、玉虫厨子とよばれていることもよく知られています。

しかしながら、玉虫厨子に飾られた玉虫の翅の実物を見たことがある人はいますでしょうか。

まずは、Photo. 5をご覧ください。

これが、ヤマトタマムシです。

次にPhoto.6 をご覧ください。

これが、玉虫厨子の金銅金具に飾られたヤマトタマムシの翅だそうです。

詳しくは知りませんが、この発色は翅の表面の多層膜による光干渉に違いないと思われます。

玉虫厨子は飛鳥時代ですからざっと1400年程度経過していますが、この発色を維持しているのは驚きです。

発色のもとの多層膜は、有機物質ではなく無機物なのでしょうか?




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Photo. 5 ヤマトタマムシ(写真引用:http://photozou.jp/photo/show/1433095/260026872



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Photo. 6 玉虫厨子の金銅金具上のヤマトタマムシの翅:

(上)透かし金具の下部に挟み込まれています、 (下)透かし丁番の窓に挟み込まれています

(写真引用:http://tabikaseki.jp/tamamushi.html




[参照サイト]


[1]:https://kotobank.jp/word/%E5%8E%A8%E5%AD%90-83783