昨日のウォークでは、岩殿観音(正法寺)六面幢にまず向かいました。
この六面幢のロケーションは、岩殿観音(正法寺)の境内ではなく谷を隔てた尾根筋にです。

 Photo. 1 に示しますように、緑泥片岩(青石)製の正六角柱状板碑で側面に彫り物が施されています。
種字 梵字の判読は、このままでは困難です。
傍らに、東松山市教育委員会作成の標識がありました。
Photo. 2 に示しました。
標識に記載されている内容を下記にて要約します。

1) 建立年: 天正10年(西暦1582年)
2) 建立者: 岩殿山の僧道照
3) 目的: 俊誉・妙西・道慶・俊意らの菩提供養

なお、標識には埼玉県の指定文化財と記載されていますが、指定文化財のリスト[#1]には掲載されていませんでした。
調べましたところ、県指定史跡のリスト[#2]の26番目に掲載されていました。

 ここでこの六面幢の上記目的に注目しますと、俊誉・妙西・道慶・俊意らの菩提供養とあります。
この中の俊誉は、栄俊の弟子と板碑には記載されています[#3]。
新編武蔵国風土記稿[#4]によれば、栄俊とは天正2年に正法寺を再建しました別当栄俊と考えられます。
また新編武蔵国風土記稿[#4]では、俊意とは比企郡飯島村の正徳寺を開山した僧ではないかと示唆しています。
いずれにせよ、俊誉・俊意はそれなりの高僧と考えられます。


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Photo. 1  岩殿観音(正法寺)六面幢

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Photo. 2  岩殿観音(正法寺)六面幢に関しての標識


 ところで、ここにはいままで数回訪れたことがありましたが、いつも気になっていたことがあります。
それは、この六面幢付近にある横穴の存在でした。
Photo. 3 に示します。
凝灰岩壁に、大小4基の横穴が並列配置され横穴群を形成しています。
Photo. 3 では、数量4基の確認は難しいですね。

 4基の横穴の個別写真をPhoto. 4 に示します。
手前から奥行方向に、各横穴に横穴 a, b ,c , d と識別することにします。
1) 横穴a は、開口部が土砂に半ば埋もれています。
2) 横穴bは、穴の高さ・幅ともに開口部から奥行方向に向かって減少しますが、奥行の半分からは一定となっています。
3) 横穴cは、横穴bと類似しておりほぼ同一と見えました。規模も横穴 a b が4基中で最大と見えます。
4) 横穴dは、横穴dの上部凝灰岩壁が崩壊しその開口部を半分以上にわたり覆っていて内部がよくわかりませんでした。

 この横穴はいったい何でしょうか。
現在までの私の調査では、この横穴に関する資料が見当たりません。
従いまして、これよりは先は私の推理となります。
まず横穴の数量4が、六面幢に記載された主たる僧侶である俊誉・妙西・道慶・俊意の数と一致いたします。
これより、この横穴は上記僧侶に関係したものであり、例えば墳墓の可能性があるように考えられます。
ただし、天正年間に僧侶を横穴に埋葬したような風習が存在したのか否かは疑問符が付きます。
しかしながら、墳墓と推定しますとこの地点に六面幢を建立した理由が確定します。
俊誉・妙西・道慶・俊意に関連する横穴群に接近して、4人の菩提を供養したことと理解されます。
冒頭に申し上げましたように、六面幢岩殿観音(正法寺)の境内ではなく谷を隔てた尾根筋に存在しているのです。

 別の可能性としては、この地域にしばしばみられる古墳時代横穴墓ではないかという考え方もできるかもしれません。
例えば、この近辺にあります鳩山町の十郎横穴群を挙げられます。
しかしながら、前述しましたように六面幢横穴に関する資料も見当たらず、古墳時代の遺跡と考えるには否定的にならざるを得ません。

 私としては、前者の可能性が高いかと考えています。
どなたかご存知の方は、情報をお寄せください。


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Photo. 3  岩殿観音(正法寺)六面幢付近の横穴群
手前から奥行方向に、4基の横穴を横穴 a, b ,c , d と識別します

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Photo. 4  横穴群の個別写真:上左;横穴a、上右;横穴b、下左;横穴c、下右;横穴d


 このあと岩殿観音(正法寺)の境内にでますと、鐘楼わきの早咲きの桜が満開でした。
この春初めての桜となりましたが、彼岸桜でしょうか。
Photo. 5 をご覧ください。
葉も展開を開始しています。
遠景に見えます御堂は、百地蔵堂となります。


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Photo. 5 岩殿観音(正法寺)境内の早咲き彼岸桜:遠景は百地蔵堂


参考文献
[#1]: 埼玉県. 埼玉県指定有形文化財. https://www.pref.saitama.lg.jp/f2216/documents/11.pdf
[#2]: 埼玉県. 埼玉県指定史跡. https://www.pref.saitama.lg.jp/f2216/documents/14-1.pdf
「No.26:正法寺六面幢:板石塔婆6枚を六角形に組み合わせたもの。高さ1.15m、天正10年銘。蓋石に彫刻」と記載されています。
[#3]: 国立国会図書館.デジタルコレクション.「埼玉県史蹟名勝天然紀念物調査報告第五輯」. http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1122124/61?tocOpened=1
[#4]: 東松山市教育委員会、新編武蔵国風土記稿 寺院 堂庵 書上、東松山市、1981