健康人口

2016年末に定年退職しました。 このブログでは、埼玉県比企郡鳩山町を中心にした植生写真を掲載します。 その他、その地誌、趣味の木工、旅行、お酒にも触れます。

新型コロナウィルス(COVID-19)の感染者数に関しての考察(その7)ー実効再生産数と感染数理モデル

考察(その2)での感染数理モデルから実効再生産数を算定する試みをしてみました。
また日本での感染データを感染数理モデルで解析し実効再生産数を計算してみました
考察(その2)での感染数理モデルを再度記載します。

\[\frac{dS}{dt} =- \beta SI\]
\[\frac{dI}{dt} = \beta SI- \gamma I\]
\[\frac{dR}{dt} = \gamma I\]

ここで、変数は$S$、$I$, $R$です。
$S$ は、the number of $susceptible$ individuals の $S$ であり, 感染の可能性のある個体の数量、すなわちまだ感染していない人の数(健康人口と呼ぶことにします)を表しています。
次に $I$ ,は, the number of $infected$ individuals の $I$ であり, 感染した個体の数量、すなわちすでに感染している人の数(感染人口と呼ぶことにします)を表しています。
変数 $R$ は、the number of $recovered$ individuals の $R$ であり、回復した個体の人数(回復人口と呼ぶことにします)を表しています。
なお $R$ には死者を含めます。

上記微分方程式の第2式から、

 \[\frac{dI}{dt} = \gamma \big(  \frac{ \beta S}{ \gamma }-1 \big) I\]

となります。
ここで、実効再生産数 ( effective reproduction number ) を定義します。
h実効再生産数は普通は$R$と表記しますが、回復人口と識別するためここでは$ERN$と表記します。
\[ERN \equiv    \frac{ \beta S}{ \gamma } ,    ......[1]\]

実効再生産数$ERN$を考察しましょう。
以下の3つのケースがあります。
\[(1)  ERN>1 \Longrightarrow  \frac{dI}{dt}  > 0 \]
\[(2)  ERN=1 \Longrightarrow  \frac{dI}{dt}  = 0 \]
\[(3)   ERN<1 \Longrightarrow  \frac{dI}{dt}  < 0 \]
すなわち、
\[(1) ERN>1 \Longrightarrow「感染人口は増加します」\]
\[(2) ERN=1 \Longrightarrow 「感染人口は極値をとります」\]
\[(3) ERN<1 \Longrightarrow 「感染人口は減少します」\]
$I$は、感染人口ですから初期値は0で次第に増加しその後減少する傾向の関数ですから、上記(2)の場合の$I$の極値とは極大値と考えられます。
この意味でこの数理モデルによる実効再生産数$ERN$の定義は合理的であるといえます。

 さて日本におけるCOVID-19の感染状況を視覚化しました。
Figure 1 をご覧ください。
厚労省公開のデータ [1] を使用して縦棒グラフと折れ線グラフをプロットしています。
(1) 新規感染者数縦棒グラフ
(2) 新規退院者数縦棒グラフ
(3) 新規死亡者数縦棒グラフ
(4) 累積感染者数グラフ
(5) 感染人口グラフ
(6) 感染人口階差グラフ(移動平均処理)
(7) 回復人口グラフ



COVID-19 20200508
Figure 1 日本におけるCOVID-19の感染状況

 ここで最も注目すべき点は、感染人口グラフがピークアウトし減少傾向を見せかけていることです。
感染人口階差グラフ(移動平均処理)は、感染人口グラフの微分を表現しています。
従いまして、感染人口階差グラフ(移動平均処理)の細かな揺動を均して見た際に、5月3日付近で横軸を交差しているとざっくり判断します。
これより感染人口グラフのピークは、5月3日付近と判断します。
Figure 1の開始点は1月15日ですが、これより5月3日は110日後となります。

 さてFigure 1にある感染人口グラフ感染数理モデルを用いてフィッティングすることを試みます。
この際に、感染人口グラフのピークが5月3日(110日後)であることにも留意することとします。
計算の初期値は下記のとおりです。
Figure 2 がその結果です。  

[1]  $S(0)=20000=1.4\times 10^{4} $; (people)
[2]  $I(0)=1$; (people)
[3]  $R(0)=0$; (people)
[4]  $\beta=0.0000644=6.44\times 10^{-5}$; (/people/day)
[5]  $\gamma=0.211968$; (/day)



simulated Japan 1
Figure 2   日本での感染人口$I(t)$の時間変化
水色カーブ:厚労省データからの算定値,  紫色カーブ:数理モデル (SIRモデル ) での計算値
$S(0)=20000=2\times 10^{4} $, $I(0)=1$, $R(0)=0$
$\beta= 0.0000644=6.44\times 10^{-5}$, $\gamma=0.211968$


 次に、Figure 3健康人口感染人口回復人口のシミュレーション結果も示します。
この図には、健康人口から算定した累積感染者数グラフも併せて示してます。
Figure 1の実際値と比較して、回復人口グラフに乖離が見られます。
simulated Japan 1-0

Figure 3   韓国での感染のシミュレーション結果
紫色累積感染者数、 青色健康人口、 緑色回復人口、 赤色感染人口
Figure 2と同一の条件でのシミュレーション結果

 さてこのシミュレーションから、[1]で定義したERNを計算してみました。
Figure 4 をご覧ください。
起点の1月15日(0 day)でのERN=6.0から、5月3日(110 days)でのERN=0.99、5月8日(115 days)でのERN=0.70と単調減少する曲線となっています。
起点から40日後までERN=6を維持していますが、この数値は基本再生産数と考えられます。
このシミュレーションでは、基本再生産数(Basic reproduction number) は、BRN=6.0と判断できます。
なお、COVID-19BRN値としては、1.5~6.49(平均値:3.28)という数値が公表されています[2]


simulated Japan 1-6
Figure 4 日本での実効再生産数 ERN のシミュレーション結果
横軸は1月15日からの経過日数
Figure 2と同一の条件でのシミュレーション結果


[参照サイト]

新型コロナウィルス(COVID-19)の感染者数に関しての考察(その3)ー韓国感染データと感染数理モデル

 考察(その3)では韓国での感染データに関して触れ、感染数理モデル ( SIRモデル ) で説明ができるかどうかを検討してみます。

 韓国の感染データを取り扱う理由は、感染者の発生数データから見て中国とともに沈静化に向かう傾向がみられるためと必要な感染データ群が整っているからです。
KCDC (Korea Centers for Disease Control and Prevention ) [1] が公表しているデータから感染発生数累積感染者数を視覚化してみたした。
Figure 1 をご覧ください。
感染発生数が3月29日付近をピークにして減少傾向にあり、かつ累積感染者数もその勾配が減少していることがわかります。



COVID-19 Korea 0319
Figure 1 感染者発生数と累積感染者数(韓国):KCDC公表のデータ [1] から作成


  さて考察(その2)で説明しました感染数理モデル ( SIRモデル ) では、変数として3種類すなわち健康人口 $R(t)$、感染人口 $I(t)$、回復人口 $R(t)$ を導入しました。
この中の感染人口 $I(t)$は、Figure 1感染者発生数とは異なる数量概念です。
すなわち、感染人口 $I(t)$ とは時刻 $t$ において感染している人の数と定義されています。
従いまして、時刻 $t$ までに発生した感染者の合計(これは時刻 $t$での累積感染者数となります)から時刻 $t$ までに退院した人の数および時刻 $t$ までに死亡した人の数を差し引いたものとなります。
数式では、下記となります。

\[I(i) \equiv \sum_j^i O(j) -( \sum_j^i Di(j)+ \sum_j^i De(j)  )        ,......[1]\]

ここで、
  $I(i)$:時刻(日数)$i$ での感染人口
  $O(j)$:時刻(日数)$j$ での感染者発生数
  $Di(j)$:時刻(日数)$j$ での退院した人の数
  $De(j)$:時刻(日数)$j$ での死亡した人の数
を表しています。

 KCDCでは、感染者発生数$O(j)$ だけでなく退院した人の数$Di(j)$ 並びに死亡した人の数$De(j)$ のデータが毎日更新されています。
これらデータから感染人口$I(i)$を算定できます。
Figure 2 をご覧ください。
これは、Figure 1感染人口$I(i)$のグラフを追加したものです。
感染人口$I(i)$グラフの特徴は下記事項となります。

(1) 3月6日頃までは感染人口グラフと累積感染者数グラフが接近している
(2) 3月6日頃以降は感染人口グラフと累積感染者数グラフが乖離してくる
(3) 3月13日付近で感染人口グラフは極大を迎える
(4) 3月13日以降は感染人口グラフは低減している

上記事項(3)に関しては、考察(その2)において感染数理モデル (SIR モデル ) における感染人口の時間変化の特徴として記載しています。


COVID-19 Korea 0319-2
Figure 2 感染人口(韓国):KCDC公表のデータ [1] から作成


 次に、考察(その2)において説明しました感染数理モデル (SIR モデル )を適用して、 Figure 2 感染人口グラフをフィティングしてみたいと思います。
Figure 3 をご覧ください。
ここには、Figure 2 での感染者数(感染人口)水色カーブで示されています。
このカーブに感染数理モデル (SIR モデル )を適用してフィティングした数値計算の結果が紫色カーブで示されています。
シミュレーションには、scilabを用いました。
この数値計算で使用した初期値とパラメータ値は下記となります。
[1]  $S(0)=50000000=5\times 10^{7} $; (people)
[2]  $I(0)=1$; (people)
[3]  $R(0)=0$; (people)
[4]  $\beta=0.0000002279=2.279\times 10^{-7}$; (/people/day)
[5]  $\gamma=11.2$; (/day)

[1] に関しては、韓国の人口51845612人の概数を使いました。
[2],[3] は合理的な数値です。
[4] と [5] は、試行錯誤の結果実際値をもっともよく近接する数値となっていると考えています。
なおこの数値計算の結果では、感染者数(感染人口)$I<10 (people)$となるのが95日後、$I<1 (people)$となるのが107日後、すなわちそれぞれ4月23日、5月6日となりますが、いかがでしょうか。


graph 3
Figure 3   韓国での感染人口$I(t)$の時間変化
水色カーブ:KCDCデータからの算定値,  紫色カーブ:数理モデル (SIRモデル ) での計算値
$S(0)=50000000=5\times 10^{7} $, $I(0)=1$, $R(0)=0$
$\beta=0.0000002279=2.279\times 10^{-7}$, $\gamma=11.2$


 この考察(その3)では、ここまでとさせていただきます。
なお次回の考察では、この数値計算の問題点に関して触れてみたいと考えています。


[参照サイト]
[1]:KCDC


新型コロナウィルス(COVID-19)の感染者数に関しての考察(その2)ー感染の数理モデル

感染、伝染に関しての数理モデルとしては、KermackとMcKendrick が1927年に提案した最も簡単な数理モデル(SIRモデル)[1] を採用することとします。
このモデルでは下記の微分方程式で表現されます。

\[\frac{dS}{dt} =- \beta SI\]
\[\frac{dI}{dt} = \beta SI- \gamma I\]
\[\frac{dR}{dt} = \gamma I\]

ここで、変数は$S$、$I$, $R$です。
$S$ は、the number of $susceptible$ individuals の $S$ であり, 感染の可能性のある個体の数量、すなわちまだ感染していない人の数(健康人口と呼ぶことにします)を表しています。
次に $I$ ,は, the number of $infected$ individuals の $I$ であり, 感染した個体の数量、すなわちすでに感染している人の数(感染人口と呼ぶことにします)を表しています。
変数 $R$ は、the number of $recovered$ individuals の $R$ であり、回復した個体の人数(回復人口と呼ぶことにします)を表しています。
なお $R$ には死者を含めます。
いっぽう、$\beta, \gamma>0 $ はパラメータです。
$\beta$ は、感染のしやすさを表すパラメータで感染率と呼ばれます。
$\gamma$ は、回復のしやすさを表すパラメータで回復率と呼ばれます。
上記微分方程式の第1式は、健康人口健康人口 $S$ と感染人口 $I$の積 $SI$ に比例して減少することを表現しています。
第2式は、感染人口健康人口 $S$ と感染人口 $I$ の積 $SI$ に比例して増加するとともに感染人口 $I$ に比例して減少することを表現しています。
第3式は、回復人口感染人口 $I$ に比例して増加することを表現しています。
第1式と2式に非線形項 $SI$ がありますので、この数理モデルは非線形微分方程式となっていますことに注意してください。
非線形であるためこの微分方程式は解析解を求めることはできませんので、数値解析を行う必要があります。

 次に、数値解析の一例を記載します。
数値解析には、scilabを利用しました。
初期値としては、 $S(0)=1000$, $I(0)=1$, $R(0)=0$ としました。
またパラメータ値としては、$\beta=0.0001$, $\gamma=0.07$ としてみました。
Figure 1 をご覧ください。

 ここで、重要なことは以下です。
(1) 感染人口の時間変化は極大値をもち、その形状がピークじょうになること
(2) 健康人口の時間変化は、単調減少であること
(3) 回復人口の時間変化は、単調増加であること
(4) 感染人口、健康人口、回復人口の和は一定であること

事項(4)に関しては、上記微分方程式から導かれます。
すなわち、
\[\frac{dS}{dt} +\frac{dI}{dt}+\frac{dR}{dt} =- \beta SI0+\beta SI- \gamma I+\gamma I=0\]
から明らかです。
次回の考察では、新型コロナウィルスcovid-19に関してこの数理モデルを適用してみることにします。
graph 2
Figure 1  SIRモデルでの数値計算の一例
横軸は日数(日)、縦軸は人口(人)です。
青色カーブ健康人口 $S(t)$ , 赤色カーブ感染人口 $I(t)$, 緑色カーブ回復人口 $R(t)$
$S(0)=1000$, $I(0)=1$, $R(0)=0$
$\beta=0.0001$, $\gamma=0.07$


[1]https://www.maa.org/press/periodicals/loci/joma/the-sir-model-for-spread-of-disease-introduction
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nonchan

ブログデビューしたてのビギナーです。 定年リタイア後、ルーティンとして週5のウォーキングと週2のスイミングを課してます。 ブログでは、わたし流の生活から派生した事項を載せるつもりです。 まずは、ウォーキング中に撮影した自宅付近の植生の写真を載せます。 趣味の木工も掲載しようかと考えています。