「折敷(木製ランチョンマット)を試作しました」のご報告の直後、追加でさらに折敷(木製ランチョンマット)2枚作製しました。
この2枚も柿渋で塗装しました。
合わせて折敷4枚です。
 
 塗装に初めて柿渋を使用しましたので、柿渋の上に塗るコートとして何を使用するのがいいのか検討しました。
調査してみると木工用みつろうクリーム(尾山製材株式会社)という解に出会いました。
木工用みつろうクリーム(尾山製材株式会社)は、蜜蝋、富山県産なたね油、亜麻仁油、椿油、青森県産ヒバ油を使用しているようです。
早速入手して柿渋で塗装した折敷の上にコートしてみました。
撥水性も良く、仕上がりもなかなか良いです。

 合わせて4枚の折敷の内の2枚を6月、7月と2か月我が家にて毎日の朝昼晩の食事に使用してみました。
これは、コートに使用した木工用みつろうクリームを評価するためです。
2ヶ月使用してみて、以下の事項がわかりました。

1)撥水性は維持できること。
2)汚れは、水で濡らした布を搾って拭き取れること。
3)カレーや赤ワインの汚れも、付着した直後であるならば水で濡らした布を搾って拭き取れること。


ということで4枚の折敷の内、試験用の2枚はそのまま我が家で使用することにして、未使用の2枚を鳩山町コミュニティーマルシェに出展することにしました。


 さてこの折敷には、本ざね端ばめ接ぎ(ほんざねはしばめつぎ)という仕口を使用しています。
ここでPhoto. 1 をご覧ください。
これが製作直後の折敷本ざね端ばめ接ぎの接合部の拡大写真です。
写真では明瞭でないかもしれませんが、製作当初は板目材Aの木端と柾目材Bの木口は面を合わせていました。
次にPhoto. 2 をご覧ください。
Photo. 1と同一の未使用の折敷の同一の部分を本日ただ今撮影したものです。
板目材Aの木端と柾目材Bの木口は、面が一致していないことにお気づきでしょうか。
これは、実は湿気のなせる業です。
以降その理由を解説いたします。


initialphoto
Photo. 1 製作した6月初めの折敷の接合部の写真


IMG_20190803_094933
Photo. 2  Photo.1 と同一の折敷の接合部:本日撮影

 
 この現象を理解するためには、次の2つの事実を理解する必要があります。

事実 1)木材は、吸湿すると膨潤すること [1]
事実 2)膨潤の程度に異方性があること [1]

事実 1)は、木材は湿度と温度に応じて空気中の水蒸気を吸収しその結果膨らむという事実を言っています。
事実 2)は、その際に膨らむ程度は等方的ではなく異方性、すなわち木材中の方向によって違いがあるという事実を言っています。

 さて木材には基本方向が存在します。
Photo. 3 をご覧ください。
切株の写真です。
この写真に示しますように、3種類の基本方向が存在します。

1)軸方向、幹軸方向、繊維方向:longitudinal direction
2)放射方向、半径方向:radial direction
3)接線方向:tangential direction

cross-section-tree
Photo. 3  木材の基本方向:軸方向、放射方向、接線方向 


 次に板目材と柾目材を例に挙げて、それぞれの板材の基本方向がどうなっているかを検討してみましょう。
Photo. 4 をご覧ください。
板目にしろ柾目にしろ、次のように要約できます。
1)軸方向:木目の走る方向、通常の板材の長さの方向
2)接線方向:木目と直交する方向、通常の板材の幅の方向
3)放射方向:通常の板材の厚さ方向


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Photo. 4  板目材と柾目材での3種類の基本方向

 最後に上記3種類の基本方向で膨潤の程度がどのように違うのかという事実を説明します。

事実 3)膨潤率異方性は、およそ下記となること [1]

         接線方向:放射方向:軸方向=20:10:1

つまり、通常の板材では膨潤率
 
         幅方向:厚さ方向:長さ方向=20:10:1

になると言い換えられます。

 ここで折敷に戻りましょう。
折敷を構成するすり合わせ矧ぎした板目材端ばめ接ぎした柾目材での基本方向を考察してみましょう。
Photo. 5 をご覧ください。
Photo. 2 での面落ちに原因するのは、Photo. 5 でのY方向となります。
すり合わせ矧ぎした板目材AではY方向は接線方向であるのに対して、端ばめ接ぎした柾目材Bでは軸方向となります。
事実 3)から、すり合わせ矧ぎした板目材AのY方向の膨潤端ばめ接ぎした柾目材BのY方向の膨潤の20倍の程度と推定されます。
この1桁以上の膨潤の差異が、Photo. 2 に示すような段差を生むでいるものと理解できます。



折敷
Photo. 5  折敷の板目材と柾目材の基本方向

 
 ここで、皆様の疑問にお答えします。
皆様はすり合わせ矧ぎした板目材端ばめ接ぎした柾目材は、互いに接着剤で固定しているのでPhoto. 2 のような段差は生じないはずでしょうと疑問に思っているのではないかと推測されます。
実はこの試作品の場合は、すり合わせ矧ぎした板目材端ばめ接ぎした柾目材は中央部の1/3程度の部分にだけ接着剤で固定していたのです。
今までに記載していたことは、製作時には想定済みのことでした。
仮に部分接着ではなく全面で接着固定しますと、膨潤時は端ばめ接ぎした柾目材に引っ張り応力が生じますので端ばめ接ぎした柾目材に割れやクラックが発生することが予想されます。
そのため、端ばめ接ぎを採用する場合はこの現象を回避する策を打つ必要があるのです。
今回は、部分接着という策を打ってみました。
これはこれで今のところ問題は生じてないようです。

 ということで、未使用の2枚を鳩山町コミュニティーマルシェに出展しました。

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[参考ウェブサイト]
柿渋、折敷、本ざね端ばめ接ぎ、すり合わせ矧ぎ、板目、柾目などの木工用語


[参考文献]
[1]:職業能力開発総合大学校. 木工材料. 職業訓練教材研究会. 2013. pp46~50. ISBN978-4-7863-1096-6